逆流性食道炎とは? 胸やけの原因・症状・治療をわかりやすく解説
「食後に胸のあたりがジリジリと焼けるような感じがする」「夜、横になると喉のあたりまで酸っぱいものが上がってくる」「げっぷが頻繁に出て、なんとなく胸が苦しい」
こうした症状に悩みながらも、「食べすぎただけかな」「少し経てば治るだろう」と放置してしまっている方は少なくありません。
実際の外来でも、「市販の胃薬を飲みながら数ヶ月間我慢していた」「胸のあたりの症状なので、心臓が悪いのかと心配していた」という方がいらっしゃいます。
こうした症状の原因として多いのが、逆流性食道炎です。日本では近年患者数が増加しており、決してめずらしい病気ではありません。しかし、放置するとじわじわと食道の粘膜がダメージを受け、長期的には食道がんのリスクにつながる可能性もあります。
この記事では、消化器病専門医・内視鏡専門医の立場から、逆流性食道炎の原因・症状・診断・治療・日常生活での注意点まで、できるだけわかりやすく解説します。
1. 逆流性食道炎とはどんな病気?
逆流性食道炎とは、胃の中の酸(胃酸)や内容物が食道に逆流し、食道の粘膜に炎症を引き起こす病気です。
本来、食べ物や飲み物は食道を通って胃に入り、胃と食道の境目にある「下部食道括約筋(かぶしょくどうかつやくきん)」という筋肉がしっかりと閉じることで、胃の内容物が食道に逆流するのを防いでいます。
ところがこの仕組みがうまく働かなくなると、強い酸性の胃液が食道に逆流します。食道の粘膜は胃の粘膜と異なり、酸に対する抵抗力が弱いため、繰り返し胃酸にさらされることで炎症が起こります。これが逆流性食道炎です。
英語では「Gastroesophageal Reflux Disease」、略してGERD(ガード)とも呼ばれます。
2. 逆流性食道炎の主な原因
① 下部食道括約筋の機能低下
胃と食道の境目にある筋肉が緩むことが最も基本的な原因です。この筋肉は加齢とともに弱くなりやすく、また脂肪分の多い食事・アルコール・喫煙・特定の薬などによっても機能が低下します。
② 食道裂孔ヘルニア(しょくどうれっこうヘルニア)
横隔膜には食道が通るための穴(食道裂孔)があります。この穴が広がり、胃の一部が横隔膜より上に出てしまう状態を「食道裂孔ヘルニア」といいます。
食道裂孔ヘルニアがあると、下部食道括約筋の働きが弱まり、胃酸が逆流しやすくなります。中高年以降の方に多く見られ、逆流性食道炎の重要なリスク因子です。胃カメラ検査を行うと比較的よく見つかる所見の一つです。
③ 肥満・腹圧の上昇
お腹の脂肪が増えると、胃が圧迫されて胃酸が逆流しやすくなります。また、前かがみの姿勢、重いものを持つ動作、コルセットや腹部を締めつける衣服なども腹圧を高め、逆流の原因になります。妊娠中のお腹の圧迫も同様のメカニズムで逆流を起こしやすくします。
④ 食生活の問題
脂っこい食事・過食・早食いは胃に長時間食べ物が留まりやすくなり、逆流のリスクを高めます。また、チョコレート・コーヒー・アルコール・炭酸飲料などは下部食道括約筋を緩める作用があるとされています。
⑤ 加齢
年齢とともに消化管の働きが全体的に低下し、食道の自浄作用(逆流した酸を胃に押し戻す蠕動運動)も弱くなるため、逆流性食道炎が起こりやすくなります。
⑥ ストレス・自律神経の乱れ
ストレスは胃酸の分泌を増やし、食道の防御機能を低下させます。また自律神経の乱れにより、胃腸の動きが不規則になることも逆流の誘因となります。
3. 逆流性食道炎の主な症状
逆流性食道炎の症状は多岐にわたります。典型的なものから、「まさかこれが逆流性食道炎の症状だったとは」と驚かれるものまであります。
典型的な症状
- 胸やけ(heartburn):みぞおちから胸の中央にかけてのジリジリ・ヒリヒリとした焼けるような感覚。食後や横になったときに悪化しやすいのが特徴です。
- 呑酸(どんさん):口の中や喉の奥まで酸っぱいものや苦いものが上がってくる感覚。特に食後や夜間の就寝中に起こりやすいです。
- げっぷ・胃もたれ:頻繁なげっぷや食後の胃もたれ感。「食べるとすぐに胃が苦しくなる」という訴えもよくあります。
食道以外に現れる症状(非典型症状)
逆流性食道炎は食道だけでなく、口・喉・気管支にまで影響を及ぼすことがあります。以下の症状が実は逆流性食道炎が原因だったというケースが外来では少なくありません。
- 慢性的な咳:夜間や横になった後に続く咳は、逆流した胃酸が気道を刺激していることがあります。咳止めが効かない場合に逆流性食道炎が発見されることも。
- 喉の違和感・異物感:「喉に何かつかえている感じ」「のどがイガイガする」という症状。耳鼻咽喉科を受診しても原因がわからない場合、逆流性食道炎が関与していることがあります。
- 声のかすれ・嗄声(させい):逆流した胃酸が声帯に影響することで声がかれることがあります。
- 口臭:胃酸の逆流が原因で口臭が強くなることがあります。
- 胸痛:心臓ではなく食道のけいれんや炎症による胸痛が、狭心症のような症状として現れることがあります。
4. 逆流性食道炎が疑われるときの診断
問診と身体診察
まず症状の内容・出るタイミング・期間・生活習慣(食事・飲酒・喫煙・体重変化など)をていねいに確認します。典型的な胸やけと呑酸の症状があれば、逆流性食道炎をまず疑います。
胃カメラ検査(上部消化管内視鏡検査)
逆流性食道炎の診断において最も重要な検査が胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)です。
胃カメラでは食道の粘膜を直接観察することができ、炎症の程度・範囲・合併症の有無を確認できます。また、以下のような重要な病変も同時にチェックすることができます。
- びらん・潰瘍:胃酸によるダメージの程度を確認
- バレット食道:逆流性食道炎が長期間続いた場合に食道の粘膜が変性した状態。食道がんのリスクが高まるため、定期的な観察が重要です
- 食道がん・胃がん:似た症状を起こしうる悪性疾患の除外
- 食道裂孔ヘルニアの有無:食道裂肛ヘルニアがあると逆流性食道炎をきたしやすくなります
5. 逆流性食道炎の治療
逆流性食道炎の治療は、「薬物療法」と「生活習慣の改善」の2本柱が基本です。
薬物療法
プロトンポンプ阻害薬(PPI)
逆流性食道炎の治療において中心的な役割を果たす薬です。胃酸の分泌を強力に抑えることで症状を改善し、食道粘膜の炎症を回復させます。オメプラゾール、ランソプラゾール、エソメプラゾール、ラベプラゾールなどが代表的です。多くの場合、内服して数日以内に症状の改善が得られますが、炎症の完全な治癒には通常8週間程度の継続が必要です。
カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)
近年登場した新しいタイプの胃酸分泌抑制薬です。代表的なものにボノプラザン(タケキャブ)があります。PPIより速やかに胃酸を抑える効果が得られるため、夜間症状や重症例に特に有効とされています。
アルギン酸塩・制酸薬
食後の胸やけ症状を一時的に和らげる目的で使用されます。胃酸を中和したり、食道と胃の境目にゲル状の保護膜を形成したりすることで症状を緩和します。
消化管運動機能改善薬(プロキネティクス)
胃の動きを改善し、食べ物の消化・排出を促すことで逆流を起こりにくくします。主に胃もたれや食後の膨満感が強い場合に用いられます。
維持療法について
症状がよくなっても、自己判断で薬をやめてしまうと再発しやすいです。特に食道裂孔ヘルニアがある場合や、重症の逆流性食道炎があった場合は、長期的な維持療法が推奨されることがあります。主治医の指示に従って継続することが大切です。
6. 生活習慣の改善(再発予防・症状軽減に重要)
薬による治療と並んで、日常生活の見直しは逆流性食道炎の改善・再発予防に欠かせません。
食事の工夫
- 食べすぎを避ける:一度に大量に食べると胃の内圧が上がり逆流しやすくなります。腹八分目を心がけましょう
- 早食いをしない:よく噛んでゆっくり食べることで胃への負担を減らせます
- 就寝前2〜3時間は食事をしない:横になると逆流しやすいため、寝る直前の食事は避けましょう
- 逆流を誘発しやすい食品に注意:脂肪分の多い食事・チョコレート・コーヒー・アルコール・炭酸飲料・柑橘類・香辛料などは症状を悪化させることがあります
- 甘いものの摂りすぎに注意:糖質・甘いものの過剰摂取も胃酸分泌を増やすことがあります
生活習慣の見直し
タバコは括約筋を緩め、胃酸分泌を増やします。喫煙者は逆流性食道炎が起こりやすく、治りにくい傾向があります
アルコールは胃酸分泌を高め、括約筋を緩める作用があります
肥満は腹圧を高め逆流を促進します。BMI25以上の方は体重管理が治療の一部となります
就寝時に頭側を5〜10cm程度高くすると重力で逆流を防ぎやすくなります。傾斜枕の活用も有効です
食後は少なくとも30分〜1時間は座った姿勢を保ちましょう
適度な運動・十分な睡眠・気分転換を取り入れましょう。ストレスは胃酸分泌を高めます
7. 放置するとどうなる?逆流性食道炎の合併症
「症状があっても市販薬でごまかしている」「忙しくてなかなか受診できない」という方に知っておいていただきたいことがあります。逆流性食道炎を適切に治療せず放置すると、以下のような合併症が起こる可能性があります。
食道潰瘍・食道狭窄
炎症が慢性的に続くと、食道に潰瘍が生じたり、潰瘍が治癒する過程で食道が瘢痕によって狭くなったりすることがあります(食道狭窄)。食道狭窄が起こると、食べ物が飲み込みにくくなる「嚥下障害」が現れることがあります。
バレット食道
胃酸の長期的な逆流によって、本来の食道粘膜(扁平上皮)が胃に近い粘膜(円柱上皮)に変化した状態を「バレット食道」といいます。バレット食道は食道腺がんのリスクを高めることが知られており、定期的な胃カメラによる経過観察が必要です。欧米では食道腺がんの増加が問題となっており、日本でも注意が必要な病態です。
QOL(生活の質)の低下
長期間にわたる胸やけ・睡眠障害・慢性的な咳などは、日常生活の質を大きく損ないます。「夜中に胸やけで目が覚める」「食事が楽しめない」「慢性的な咳で職場や外出先で困る」など、多くの方が生活への影響を訴えます。
8. 「症状がない逆流性食道炎」にも注意
逆流性食道炎には、胸やけなどの自覚症状がほとんどないにもかかわらず、胃カメラで食道の粘膜に炎症が認められる「無症状型」も存在します。
健診や他の目的で行った胃カメラで偶然発見されることもあり、「症状がないから大丈夫」とは言い切れません。特に定期的な胃カメラを受けていない中高年の方は、一度検査を受けることをおすすめします。
9. こんな症状があれば消化器内科へ
以下の症状が続く場合は、早めに消化器内科を受診しましょう。
- 胸やけ・呑酸が2週間以上続く
- 食後に喉まで酸っぱいものが上がってくる
- 原因不明の慢性的な咳が続く
- 喉・食道のあたりに違和感や異物感がある
- 飲み込むときに胸のあたりが痛む
- 市販の胃薬を飲んでも症状が改善しない
- 体重が減ってきた(食欲不振・飲み込みにくさを伴う)
10. まとめ
逆流性食道炎は、胃酸が食道に逆流することで起こる炎症性疾患で、日本でも患者数が増加しています。胸やけ・呑酸が典型的な症状ですが、慢性的な咳・喉の違和感・声のかすれなど、食道以外の症状として現れることも少なくありません。
診断には胃カメラ検査が有効で、炎症の程度や合併症(バレット食道など)の有無を直接確認できます。治療は胃酸を抑える薬物療法と生活習慣の改善が中心で、多くの方で症状の改善が期待できます。
一方で、放置すると食道潰瘍・食道狭窄・バレット食道・食道がんといった深刻な合併症につながることもあります。「胸やけくらいで受診するほどではないかな」と感じている方こそ、ぜひ一度、消化器内科での評価を受けてみてください。
鶴見小野駅前内科・内視鏡クリニックでは、消化器病専門医・内視鏡専門医が丁寧に診察し、必要に応じて鎮静剤を使用した苦痛の少ない胃カメラ検査を行っています。「これって逆流性食道炎かな?」と思ったら、お気軽にご相談ください。症状の内容に合わせて、わかりやすく説明いたします。
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